歴史の闇に深く刻まれ、数多の議論を呼び続けてきた「本能寺の変」。稀代の天下人が志半ばで命を落としたこの事件は、「永遠のミステリー」として、今なお多くの人々の想像力を掻き立てます。
中でも、信長に最も重用されたにも関わらず、主君に刃を向けた明智光秀の動機は、様々な憶測を呼んできました。
裏切り者の烙印を押されながらも、光秀を突き動かした真の理由とは一体何だったのでしょうか?
私は織田家を思う光秀の忠誠心が謀反のきっかけなのではないかと考えています。
この記事では戦国時代好きの筆者が想像する本能寺の変をフィクションで描いています。
同盟の陰に潜む、信長の冷酷な野心
時は天正十年(1582年)。武田家が滅亡し、もはや信長に敵う者はいないかと思われた天下統一の総仕上げの時期でした。しかし、信長の胸中には、新たな、そして極めて危険な企みが秘められていたのです。
それは、長きにわたり血盟の同盟者として共闘してきた徳川家康の排除でした。
信長にとって、家康はもはや未来の脅威以外の何物でもなかったのでしょう。
強大な武力と狡猾な知略を併せ持つ家康は、信長の天下統一の最終段階において、最も厄介な存在と映ったに違いありません。信長は、家康が武田氏の残党狩りのために上洛しているこの好機を逃すまいと、その暗殺を明智光秀に密かに命じたのではと考えています。
忠臣の苦悩と、織田家存続への使命感
長らく同盟関係にあった家康を暗殺するという非道な密命を受けた光秀の心中は、如何ばかりであったでしょうか?
信長からの信頼篤く、織田家の重臣として尽くしてきた光秀にとって、同盟者を謀殺するという信長の命令は、まさに魂を揺さぶるものであったはずです。光秀は必死に信長を説得しようと試みたに違いありません。
「殿、いかに天下布武とはいえ、これはあまりに無道でございます。徳川殿を討てば、織田家の信義は地に落ち、諸国の信用を失いましょう!」
しかし、一度決めた信長の意志は、誰も揺るがすことはできません。
信長は光秀の訴えに耳を傾けることなく、冷酷な目で家康暗殺を断行するよう命じたのでしょう。
光秀は追い詰められました。このまま信長の命に従えば、織田家は悪名に塗れ、その後の天下に禍根を残すことになります。しかし、命令に背けば、自身の命はもちろん、明智家そのものが滅ぼされることは必至。
極限の選択を迫られた光秀は、苦渋の決断を下しました。
信長を生かしておけば、織田家は自らその栄光を傷つけ、やがては滅びの道を辿るだろう。
ならば、自らが悪名を被り、信長と信忠親子を討つことで、この血塗られた謀略を阻止し、織田家が築き上げてきたものを守るしかない――。それは、誰にも理解されない、孤独な忠臣が下した、あまりにも悲壮な決断でした。
「家康討伐」という大義名分、そして光秀の壮大な計画
本能寺へと軍を進める光秀は、家臣団に「徳川家康討伐」という大義名分を与えました。まさか、彼らが今から討ち取る相手が、織田信長その人であるとは露知らず。京都に宿を取る信長を奇襲し、瞬く間に本能寺は炎に包まれました。炎の向こうに、光秀は何を見たのでしょうか。それは、自らが背負うことになった「裏切り者」という重い十字架と、それでも守りたかった織田家の未来だったのかもしれません。
信長を討った後の光秀には、壮大な計画がありました。まず、混乱に乗じて近畿の地盤を固め、朝廷から新たな官位を得て、自らの正当性を確立すること。そして、柴田勝家や羽柴秀吉といった他の重臣たちに、信長が家康を暗殺しようとした真実を告げ、彼らの協力を取り付けること。そうすることで、織田家の分裂を防ぎ、新たな時代を築き上げようと目論んでいたのです。
夢の挫折と、「天海」という名の転生
しかし、歴史の女神は光秀に微笑みませんでした。信長の遺体は見つからず、その生死は謎のままに。
そして、何よりも光秀の計算を狂わせたのは、羽柴秀吉の驚異的な「中国大返し」でした。
毛利攻めから一目散に京へ戻った秀吉は、光秀の思惑を打ち砕きます。
さらに、光秀の真の動機を知らぬ与力大名たちは、彼の味方をすることなく、次々と秀吉の下に馳せ参じました。
孤立無援となった光秀の計画は、もろくも崩れ去ります。
山崎の戦いで秀吉に敗れ、命を落としたとされていますが、私は光秀は生き延びたのではと考えております。
それが、「光秀=南光坊天海」説です。
信長の冷酷な密命を止めるために「鬼」となった男は、その後の歴史の表舞台から姿を消し、徳川家康の傍らで「天海」として、江戸幕府の礎を築くことに貢献したという、壮大な物語です。
本能寺の変は、単なる裏切りではなく、一人の忠臣が織田家を守るために下した、究極の選択であった。
そして、その後の彼の生涯もまた、歴史の闇に隠されたまま、新たな形で日本の未来を紡いでいったのかもしれません。
私のNoteでこの物語を小説版にしていますので、ご興味があればご一読ください。黒猫兄弟でした!
